沼津支所

研究部概要

沼津支所は、主に「がん」を研究の対象として、がんの病態を分子レベルで解析することで新たな治療標的および治療法の開発を目指している。また、それらの研究成果から実験系を構築し、放線菌やカビなどの培養液から生物活性物質を探索することで新しい抗がん剤の創薬基礎研究を行っている。

一方、微生物の環境分野への応用や新たな微生物ソースとして冬虫夏草などから昆虫病原糸状菌の分離を行っている。

テーマ

1. ユビキチン-プロテアソーム経路の阻害剤の探索

ユビキチン- プロテアソーム経路は、主要な生体内タンパク質分解経路である。特に細胞増殖や炎症に関わる鍵タンパク質がこの経路により分解されることから、がんとの関わりに関心が高まっている。そこで、我々は下記の経路に関する阻害剤を探索している。

Fig.1 ユビキチンープロテアソーム経路
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プロテアソーム阻害剤:

タンパク質分解酵素複合体であるプロテアソームは、がんの増殖や悪性化に関わる様々なタンパク質を分解している。プロテアソーム阻害剤は、これらのタンパク質の分解を阻害することにより腫瘍の増殖を抑制する。実際にプロテアソーム阻害剤は、多発性骨髄腫やマントル細胞リンパ腫の治療薬として利用されている。そこで経口投与にて有効なプロテアソーム阻害剤をインビボイメージングを用いて探索している。

Fig.2 腫瘍内でのプロテアソーム阻害剤のin vivo イメージング
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IAP阻害剤:

IAPはアポトーシス実行タンパク質であるカスパーゼのユビキチンリガーゼであり、カスパーゼの活性を抑制する働きがある。そこでIAP とカスパーゼの結合を阻害し、がん細胞にアポトーシスを誘導する化合物を探索している。

Mdm2阻害剤:

Mdm2はがん抑制タンパク質p53 のユビキチンリガーゼであり、p53をユビキチン化し分解へと導く。そこでp53 とMdm2 の結合を阻害し、p53を安定化することによりアポトーシスを誘導する化合物を探索している。

2. がん微小環境を標的とした抗がん剤の開発

がん微小環境はがんの進展や悪性化に大きな影響を及ぼしている。多くの固形がんは不十分な血管形成ならびに血流量の欠乏による慢性的な栄養欠乏・酸素不足状態にある。正常組織を栄養欠乏・酸素欠乏状態にすると細胞は速やかに死滅するが、膵臓がんのような腫瘍血管の少ないがん細胞は、栄養欠乏・酸素欠乏状態に耐えて生存できる能力を持っている。このような正常組織には見られないがん微小環境特有の現象を利用すれば新たな抗がん剤の開発に繋がると考え、低栄養や低酸素環境下の細胞に選択的に作用する化合物を探索している。

Fig.3 がん微小環境
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3. 新規アンドロゲンレセプター機能阻害物質の探索

前立腺がんは日本において死亡率および罹患率が急増している。このがんは男性ホルモンであるアンドロゲンに依存性を示すがんであるが、がんの進行と共にアンドロゲン依存性が喪失し、ホルモン療法に抵抗性を示すようになる。近年、アンドロゲン依存性を喪失した前立腺がんにおいてもアンドロゲンレセプターの機能を阻害することによって、がんの増殖を抑制できることが明らかになってきた。我々は従来の機序とは異なるアンドロゲンレセプター機能を阻害する化合物を探索している。

Fig.4 前立腺がんの進展
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4. 独自の自然転移モデルを活用した小細胞肺癌の治療シーズの探索

肺癌の2 割程度を占める小細胞肺癌は、診断時に高率に遠隔転移を認める予後の悪い癌であり、5 年生存率は10% 以下に過ぎない。この治療成績は過去数十年に渡って改善されておらず、新たな治療法の開発が急務である。しかしながら、治療法開発において重要な、小細胞肺癌の癌進展および転移の機構については、未だ不明な点が多い。最近我々は、ヒト小細胞肺癌をヌードマウス肺へ同所移植することで遠隔臓器に転移巣を形成させるモデルを、独自に開発した。本モデルは、従来の小細胞肺癌の同所移植モデルと比較して遠隔転移頻度が高い点で優れている。現在我々はこれを活用して、(1)転移機構(特に脳転移)の解析、(2)治療標的分子の探索、(3)治療薬シーズ化合物の探索、に取り組んでいる。

Fig.5 微化研で独自に開発した小細胞肺癌の自然転移モデル
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5. 微生物の環境分野への応用

微生物の利用を環境分野に展開している。特に火力発電所や原子力発電所などで、冷却水とともに大量に陸揚げされる通常の処理が困難なクラゲ類の分解、および廃水処理を実用化している。当研究会で発見した強力な微生物分解酵素を利用し、クラゲ類を分解した後に生ずる大量の塩分を含む有機廃水を処理できる単一繊毛虫での処理系を構築した。本技術をさらに発展させ、海産廃棄物に特化した応用を進めている。本技術はすでに商品化している。

Fig.6 クラゲ分解処理概略図
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6. 冬虫夏草などの昆虫病原糸状菌からの生理活性物質の探索

我々は、新しい医薬探索源として冬虫夏草を含む昆虫病原糸状菌の収集・分離を行っている。昆虫病原糸状菌は、昆虫への寄生、増殖、殺虫といったライフサイクルの中で様々な生理活性物質を生産していると考えられる。それらの生理活性物質はユニークな構造・機能を有し、医薬品の種化合物として有用であると期待されている。我々は、抗がん剤を中心に生理活性物質の探索を行っており、さらに菌の代謝産物の多様性を拡げるため二次代謝の活性化の検討を行っている。

Fig.7 冬虫夏草
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