沼津支所は、主に「がん」を研究の対象として、がんの病態を分子レベルで解析することで新たな治療標的および治療法の開発を目指している。また、それらの研究成果から実験系を構築し、放線菌やカビなどの培養液から生物活性物質を探索することで新しい抗がん剤の創薬基礎研究を行っている。
固形がんのほとんどは上皮細胞層から発生し、そのがん組織はがん細胞のみでなく周辺の間質と混在する形で成り立っている。間質は血管、マクロファージ、繊維芽細胞や細胞外基質などによって構成されており、間質は接着や分泌因子などを介してがんの増殖や転移を制御している。興味深い事に、このようながん—間質相互作用はがんの進展を促進する場合と逆に抑制する場合があることが分かってきた。そこで我々は、このがん細胞とがんではない正常な細胞との相互作用を利用した新しいがんの治療法の可能性について着目し、以下のような研究テーマについて検討している。(a)がんー間質相互作用の制御。(b)慢性炎症とがんの発症。(c)自然免疫(がん免疫)の制御。(d)動物実験モデルの開発。また、文科省新学術領域研究「がん支援」化学療法基盤支援活動に参画し、がん研究のサポートを行っている(http://scads.jfcr.or.jp/)。
ユビキチン-プロテアソーム経路は、主要な生体内タンパク質分解経路である。特に細胞増殖や炎症に関わる鍵タンパク質がこの経路により分解されることから、がんとの関わりに関心が高まっている。そこで、我々は下記の経路に関する阻害剤を探索している。
プロテアソーム阻害剤:タンパク質分解酵素複合体であるプロテアソームは、がんの増殖や悪性化に関わる様々なタンパク質を分解している。プロテアソーム阻害剤は、これらのタンパク質の分解を阻害することにより腫瘍の増殖を抑制する。実際にプロテアソーム阻害剤は、多発性骨髄腫の治療薬として利用されている。そこで既存のプロテアソーム阻害剤より優れた化合物を探索している。
IAP阻害剤:IAPはアポトーシス実行タンパク質であるカスパーゼのユビキチンリガーゼであり、カスパーゼの活性を抑制する働きがある。そこでIAPとカスパーゼの結合を阻害し、がん細胞にアポトーシスを誘導する化合物を探索している。
Mdm2阻害剤:Mdm2はがん抑制タンパク質p53のユビキチンリガーゼであり、p53をユビキチン化し分解へと導く。そこでp53とMdm2の結合を阻害し、p53を安定化することによりアポトーシスを誘導する化合物を探索している。
がん微小環境はがんの進展や悪性化に大きな影響を及ぼしている。多くの固形がんは不十分な血管形成ならびに血流量の欠乏による慢性的な栄養欠乏・酸素不足状態にある。正常組織を栄養欠乏・酸素欠乏状態にすると細胞は速やかに死滅するが、膵臓がんのような腫瘍血管の少ないがん細胞は、栄養欠乏・酸素欠乏状態に耐えて生存できる能力を持っている。このような正常組織には見られないがん微小環境特有の現象を利用すれば新たな抗がん剤の開発に繋がると考え、低栄養や低酸素環境下の細胞に選択的に作用する化合物を探索している。
前立腺がんは日本において死亡率および罹患率が急増している。このがんは男性ホルモンであるアンドロゲンに依存性を示すがんであるが、がんの進行と共にアンドロゲン依存性が喪失し、ホルモン療法に抵抗性を示すようになる。近年、アンドロゲン依存性を喪失した前立腺がんにおいてもアンドロゲンレセプターの機能を阻害することによって、がんの増殖を抑制できることが明らかになってきた。我々は従来の機序とは異なるアンドロゲンレセプター機能を阻害する化合物を探索している。