生物活性研究部

研究部概要

生物活性研究部では、創薬に焦点を当て研究を行っている。感染症、炎症性疾患、がん等の病原性発現機構に基づいた独自のスクリーニング系を構築し、微生物培養液から活性物質を探索している。得られた活性物質について作用機序解析を行い、全所的に薬への最適化を図る。併せて、多様性に富んだスクリーニングソース確保のため、土壌、水圏そして昆虫から微生物を新たに分離し、微生物ライブラリーを構築している。

テーマ

1. 抗多剤耐性結核菌薬の開発

  • 結核は、世界三大感染症(結核、HIV、マラリア)の一つであり、全世界で毎年900万人以上の新規感染者が発生し、150万人以上の死亡者を出している。特に、HIVとの共感染と既存薬が効かない多剤耐性結核菌(MDR-TB)、超多剤耐性結核菌(XDR-TB)の蔓延が深刻な問題となっている。
  • 研究所の創設者、梅澤濱夫博士が日本初の抗結核薬カナマイシンを発見開発して以来、その後50余年に渡り、我々は多くの抗結核薬の開発研究を続けてきた。その一連の研究の過程で2003年、結核に有効な物質としてカプラザマイシンを放線菌の代謝産物中より発見した。カプラザマイシンをリード化合物とした構造活性研究の結果、カプラザマイシンより高活性で物性に優れたCPZEN-45を発見した。その後、CPZEN-45は現在問題となっている多剤耐性菌に対しても動物実験で有効であることを確認した。
  • さらに、本物質を一刻も早く医療現場に提供するため、米国で世界の結核患者を救済するために創設された半官半民の組識である”The Lilly TB Drug Discovery Initiative”に2008年に参画し、開発を進めている。

2. 抗菌薬トリプロペプチンC(TPPC)の開発

抗菌薬トリプロペプチンC(TPPC)の開発
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  • MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)は常在性のグラム陽性好気性菌で日和見感染菌として知られており、易感染性宿主に敗血症・肺炎・心内膜炎などの難治性の重症感染症を惹き起こす。さらにこれらの菌は、ほとんどの既存薬に耐性を示し、新薬の開発が急務となっている。
  • 我々は、上記の病原菌に有効な化合物を微生物代謝産物から探索し、沖縄の土壌から分離したライソバクター属細菌の培養液中からトリプロペプチンC(TPPC)を発見した。
  • TPPCは既存薬と交差耐性を示さず、MRSA, VRE, PRSP(ペニシリン系薬剤耐性肺炎球菌)に優れた抗菌力を示した。また本化合物は静脈内投与で安全性が高く、マウスの MRSA/VRE 全身感染モデルにおいてバンコマイシンより優れた治療効果を示した。また本化合物が既存薬とは異なる機序で細胞壁合成を阻害することを明らかにした。現在、細胞壁合成に関与する酵素を過剰発現した黄色ブドウ球菌を作成し、TPPC および各種薬剤の感受性変化を調べるとともに、既存薬剤との併用のよる相乗性についても検討を行っている。
  • 現在、TPPC は様々なマウスの感染モデルに対する治療効果を検討するなどの前臨床試験を実施中である。

3. 新型βラクタマーゼNDM-1の伝播機構に関する研究

新型βラクタマーゼNDM-1の伝播機構に関する研究
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  • 抗生物質の効かない病原菌が蔓延し、我々人類の健康の脅威となって久しい。それら耐性に寄与する遺伝子群の多くは可動性のプラスミド上に存在し、同種、異種間を問わず伝播し、急速に広がっていく。すなわち、この伝搬機構の解明こそ、薬剤耐性拡大の抑制に有効であると考えられる。
  • NDM-1は、2008年に初めて報告された新型βラクタマーゼである。NDM-1をコードする遺伝子blaNDM-1も可動性プラスミド上に存在し、発見以来、南アジアやヨーロッパを中心に急激に拡大している。日本でも2009年に獨協医科大学病院において、国内初のNDM-1生産大腸菌が単離された。

本研究テーマは、独協医科大学と協力し、NDM-1の非常に効率的な伝播機構を解明することを目的とする。これまでに、blaNDM-1をコードするプラスミド(約200 kbp)の塩基配列の解析を終了している。今後はこの配列を基に詳細な伝播機構の解明を目指す。

4. VEGFR-1シグナル伝達系の機能解析

  • VEGF(血管内皮増殖因子)の受容体、VEGFR-1は受容体型キナーゼ活性を有し、血管内皮細胞の他、マクロファージにおいて発現が見られる。VEGFR-1は、血管新生において負の調節因子として機能していると考えられているが生理的機能は明らかにされていない(図)。
  • 最近VEGFR-1キナーゼ欠損マウスにおいて、がん組織におけるマクロファージ浸潤抑制およびがん増殖抑制が起こることが明らかにされた(1)。骨髄移植マウスを用いた実験より、がん組織へのマクロファージ浸潤とがん増殖にはマクロファージのVEGFR-1シグナルが重要と考えられた。
  • 我々は、マクロファージにおけるVEGFR-1シグナル伝達系の機能を解析し、がん増殖との関連性について検討を行う。

(1)M. Muramatsu, S. Yamamoto, T. Osawa and M. Shibuya. Cancer Res . 2010 70 8211.

VEGFR-1シグナル伝達系の機能解析
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5. 知覚神経機能異常による疾患に対する治療薬の研究

知覚神経機能異常による疾患に対する治療薬の研究
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知覚神経は種々の刺激を受け取り、その情報を中枢神経に伝える役割を果たしている(図テーマ5)。近年、その機能異常が炎症性疼痛、神経因性疼痛、掻痒、過活動膀胱等の様々な疾患に関与していると報告されている。我々はその中でも後根神経節細胞の感受性亢進に関与する生理活性物質及びその受容体に着目し、そのシグナルに影響を及ぼす低分子化合物を主に微生物二次代謝産物より探索している。得られた化合物は感受性亢進のメカニズム解明ツールとして有用であるのみならず、知覚神経の異常によって惹起される疾患に対する治療薬のリード化合物としての可能性を秘めていると考えられる。

6. 土壌・水圏微生物に関する研究

  • 我々は,有益な生物活性を有する物質を探索するため,現在までに4万株を超える微生物から培養物ライブラリーを構築している。この微生物培養物ライブラリーの多様性や質は,医薬品になりうる生物活性物質の探索の成否に大きく影響することから,多様性の確保や質の維持管理は当研究部の重要な課題となっている。
  • 放線菌は多様な生物活性をもつ多くの二次代謝産物を作ることから、医薬の探索に最も適したスクリーニングソースの一つである。実際に,臨床上重要な医薬品であるカナマイシン、ブレオマイシン,ジョサマイシン,そしてアクラシノマイシンなどが当研究部で単離された放線菌の二次代謝産物中に発見されている。
  • そこで我々は,放線菌を中心に、ライブラリーの元となる微生物を従来の土壌サンプルより採取するとともに、多様性確保のため、深海底泥や水圏生物からも微生物の単離を行っている。

7. 昆虫共生菌及び昆虫病原糸状菌に関する研究

我々は、新しい医薬探索源として昆虫共生菌や昆虫病原糸状菌の収集・分離を行っている。昆虫共生菌は、種々の化合物を産生することで共生状態を維持し、一方、昆虫病原糸状菌は生理活性化合物を介して宿主の生体防御系を回避して感染し病気を起こすと考えられる。それらの微生物が産生する物質はユニークな構造・機能を有し、医薬品の種化合物となるのみならず共生現象や病原性発現機構の解明に有用であると期待される。